助成先|令和4年度(2022年度)助成先
事業概要
緑による都市環境の改善に資する調査研究のため支援を希望する者に対し、当該調査研究活動に係る費用を助成しています。本事業は、技術開発基金の運用から生じた果実をもとに実施しています。
実施状況
平成4年度から開始された本事業は、令和3年度までに計102件の助成を行いました。
令和4年度(2022年度)助成対象者
令和4年度の調査研究活動の助成対象者は、都市緑化機構内に設置した選考審査会によって、応募された調査研究課題の都市緑化技術としての適確性、独自性、内容、方法の適切さ、成果の有効性等について評価がなされ、その結果、以下の5名の方と決定いたしました。
申請者/所属 | 研究テーマ・内容 |
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浅尾 菜月 兵庫県立大学大学院 修士課程 2年 |
「福岡市のコミュニティパーク事業による公園緑地を活用した見守り・交流創出効果の検証」 |
少子高齢化や核家族化、そしてCOVID-19による交流機会の減少により、孤独孤立問題が顕在化・深刻化している。政府はこうした問題への対策の基本方針の1つに、見守り・交流の場や居場所づくりを挙げている。福岡市の「コミュニティパーク事業」では、地域住民による公園の柔軟な利用ルールづくりと自律的な管理運営を促し、さらに「パークハウス」という公園施設の設置を通じて使いやすく魅力的な公園づくりと地域コミュニティの活性化を試みている。本研究では、「パークハウス」がどのように地域住民同士の見守り・交流を創出するか、その効果を検証する。そして、新たな公園緑地の協働型管理運営手法と利用価値に関する基礎的知見を得る。 | |
久保 登士子 京都大学大学院 博士後期課程3年 |
「子どもの豊かな育ちに資する緑地の質向上に関する研究」 |
1972年の国連人間環境会議による環境意識の進展、1989年に採択された国連子どもの権利条約による子どもの参画重視、都市人口増加による子どもの自然離れの課題等により、1990年代以降、都市で親子が安心して自然とふれあえる「子どもの庭」の設置が世界各地の植物園等で進められ、子どもの参画を得ることで、「子どもの視点に立った緑地の質の向上」を図り、子どもと自然をつなぎ直す効果を上げている。日本においても、子どもの自然体験減少が課題である。本研究では、日本の子どもの望む庭の要素や活動を調査し、他国先行研究との比較を行い、子どもの豊かな育ちに資する緑地の質向上に向けた知見を得ることを目的とする。 | |
黒羽 広樹 東京都市大学大学院 修士課程2年 |
「住民の居住満足度の要因としての緑地と地域住民の繋がりの相互作用に関する研究」 |
近年、都市環境における QOL を含めた居住満足度に対する関心が高まっている。その中で、都市環境を向上させるために重要な要素として「コンパクト性、または社会的凝集性」と「緑地環境」が挙げられる。個人レベルや地域レベルにおいても社会的凝集性を高めることで、居住満足度が高まることが示されている。同様に、地域に対する緑の満足度が高い場合、その地域に対する愛着度や定住意識が高いと言われている。一方で、社会的凝集性を高めるために都市形態をコンパクト化することと、緑地環境を取り入れるような居住環境の豊かさや余裕を生み出すことはある部分で矛盾が発生することも指摘されている。しかし、緑の質や社会的な使途に着目すると両方が共存できる形も存在すると考えられる。またコンパクト化においても物理的な近接性だけではなく社会的なつながりに着目することが重要であると考えられる。これらのことから、本調査研究では「緑環境」と「人とのつながり」に着目し、それらが「居住満足度」へ与える効果や、それぞれの関係性を明らかにすることで、今後の都市における快適な緑環境設計や地域課題の解決に繋がる要因を明らかにすることを目的としている。 | |
田 子楽 筑波大学大学院 博士後期課程1年 |
「農福連携を促す緑地のデザインと人材育成に関する研究」 |
世界人口の15%、日本国民の7.6%は障碍者である、彼らが物理的・社会的な隔離が取り除かれた社会の一員として共生するため、社会参画の手段として『農福連携』が検討されている。 本研究の目的は、農福連携の推進を促すランドスケープデザインの手法とその効果を解明するため、緑地のデザインを実証的に検証し、緑に関わる人材育成を通社会実装の提案を行う。特に、医療的データにより障碍者の行動特性を解明し、緑地のデザインに反映させる点に本研究の新規性とオリジナリティがある。 これまでの農福連携は、福祉側と農業側からのアプローチが主であり、都市緑地の専門的見地や医療的な見地の裏付けが伴っていない。本研究により、緑化の推進と農福連携とをつなぎ、緑に関わる人材が本分野で活躍する学術的素地を形成したい。 |
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東 優樹 筑波大学大学院 博士前期課程1年 |
「都市近郊林の木本植物群集がもつ機能的多様性の評価:都市緑地の生態系サービスの向上を目指して」 |
都市域の森林は様々な生態系サービスを供給しているが、分断化などによる生物多様性の損失や、それに伴う生態系サービスの劣化が重要な課題とされている。都市化が生物多様性へ与える影響は多くの先行研究で考察されているものの、森林を構成する木本植物の機能的多様性と都市化の関係性について検証した事例は乏しい。機能的多様性とは生物群集がもつ形質の多様さのことを指し、生態系サービスの基盤として重要である。本研究ではこれに着目して、都市近郊林における木本植物の多様性と生態系サービスとの関係を考察し、都市化から受ける影響を明らかにする。これにより、都市の生態系の理解や都市緑地の管理手法の改善に資することを目的とする。 |
(順不同)