第19回 屋上・壁面緑化技術コンクール

第19回 国土交通大臣賞:屋上緑化部門 (東京都新宿区)
株式会社 山下設計
清水建設株式会社
設計組織プレイスメディア
イビデングリーンテック株式会社
学校法人早稲田大学キャンパス企画部
早稲田大学37号館 早稲田アリーナ
全景 全景
全景
東西断面図(上)、フトンカゴによる多孔質環境断面(下) 東西断面図(上)、フトンカゴによる多孔質環境断面(下)
東西断面図(上)、フトンカゴによる多孔質環境断面(下)
平面図 平面図
平面図

 本作品は、最大収容人数6,000人の多機能型スポーツアリーナを中心にラーニングコモンズ等を内包する大学施設の緑化である。設計では、地域との連携強化、知的生産性向上、省エネルギーの推進等、現代の大学が抱える多くの課題を一手に解決する、持続性に優れた建築の在り方を模索した。
 具体的には、建物の大半を地下に埋設し、その地表に新たなパブリックスペース「戸山の丘(屋上ひろば)」を整備することで、人・地域・環境・歴史を繋ぎ、キャンパス環境だけでなく、地域環境や地球環境の向上にも寄与する建築を実現している。周辺に生息する植物を主体とした植栽計画は、地域の生態系強化やバイオフィリックデザインによるキャンパス全体の知的生産性向上等にも寄与している。
 十分な植栽基盤や土厚の確保は、構造体に大きな荷重的負担を与えるにもかかわらず、様々な緑化技術や環境技術を用いて、生物多様性に富んだ質の高い緑化や、建築物のエネルギー量削減(ZEB Ready認証取得)を実現している点が高く評価された。

■緑化技術の概要
早稲田大学37号館 早稲田アリーナにおける技術的な諸元は以下のとおりである。
作品面積 2,542.95㎡ 設計上の荷重条件
実際の荷重
1,000㎏/㎡
1,000㎏/㎡
階数 1∼2階屋上
土壌厚 約700~2,300㎜ 土壌の種類と
名称
荒木田土、耐圧軽石系人工土壌 土壌の湿
潤時比重
1.0
植栽数量 高木: 125本 中木: 7本 低木: 1,460本 地被: 1,150㎡
潅水方法 自動潅水システム(点滴式(傾斜部分)+ポップアップスプリンクラー(2階部分))
ここで導入された技術のうち特徴的なものとして以下の点があげられる。
1.キャンパス環境の向上:人と植物を繋ぐ、透水性三角形PC平板

 「戸山の丘」は、大学と地域を繋ぐ、新たな交流・活動拠点として整備した。武蔵野の雑木林をモチーフとした自然環境の中に、学生や来訪者のための活動環境をつくり出すため、透水性三角形PC平板を開発した。板間は草目地とし、平均土厚100cmの面的な植栽基盤の上に直接PC平板を敷き込むことで、植栽配置の自由度を高めると共に、不陸にも柔軟に追従している。透水型の平板は季節ごとに土中の水分量を調整し、植物の蒸散効果や緑陰と共に快適な屋外環境をつくり出している。


2.地域環境の向上:地域の生態系を繋ぐ、多孔質な環境
株式会社 山下設計 清水建設株式会社 設計組織プレイスメディア イビデングリーンテック株式会社 学校法人早稲田大学キャンパス企画部 早稲田大学37号館 早稲田アリーナ
透水性三角形 PC 平板
株式会社 山下設計 清水建設株式会社 設計組織プレイスメディア イビデングリーンテック株式会社 学校法人早稲田大学キャンパス企画部 早稲田大学37号館 早稲田アリーナ
フトンカゴによる多孔質な環境

 計画地は広域的に見ると、神田川流域を起点とする地域のエコロジカルネットワークを形成するうえで重要な場に位置している。そこで、本計画では自然界のエコトーンにヒントを得た土壌構成を基盤に多種多様な生物・植物の棲みかをつくり出すことを目指した。スロープや芝生ひろばのエッジには、雨水排水路の機能を持つ、栗石を詰め込んだフトンカゴを配置した。栗石の隙間が生み出す多孔質な環境は昆虫や小魚達の棲みかとなっている。


3.地球環境の向上:「戸山の丘」が屋外と屋内の環境を繋ぐ

 メインアリーナは「戸山の丘」の直下に配置した。緑被効果により屋根からの熱負荷を大幅に削減すると共に、壁・床を含む6面が土に接する計画とし、地中熱(年間平均18℃)で空間全体を包むことで、日常的には空調設備に頼らない快適な室内環境を実現している。また、太陽光発電等を組み合わせ、メインアリーナは一次エネルギー量を実質ゼロとする「ゼロエネルギーアリーナ」(試算値)、施設全体でも ZEB Ready(削減率61%)を達成している。