第34回 緑の都市賞 受賞作品概要
第34 緑の都市賞 審査講評および受賞作品概要
第34回 緑の都市賞の受賞作品が決定いたしました。
表彰式の様子はこちらでご案内しています。
【内閣総理大臣賞】 緑の事業活動部門
積水ハウス株式会社 『新梅田シティ「新・里山」「希望の壁」』(大阪府大阪市)
「新梅田シティ」は、「梅田スカイビル」(40 階、173m)を中心とした大阪駅前の代表的なランドマークで、年間86 万人の観光客が来訪する施設であり、「新・里山」(面積:約8,000㎡,竣工:平成18 年)は、これに隣接する一般開放の緑地である。「新・里山」のコンセプトは「日本人の原風景である里山をお手本に」であり、これは、受賞者の緑化事業の基本コンセプトである「5 本の木」計画に基づくもので、いわば、本来事業でお客様に提案する概念を体現したものである。
「新・里山」は、500 本を越える高中木、200 種類以上の植物が植栽され、雑木林や竹林、棚田、野菜畑、茶畑などから構成されている。自然に負荷の少ない有機栽培管理を行うほか、地域の自生種・在来種を中心に植栽することで、本来その地域に生息する生き物の多様性の保護に配慮されており、ハイタカやミゾゴイ等の絶滅が危惧される野鳥の飛来が確認されている。この「新・里山」の豊かな植生により、ここを訪れる人々だけでなく、野鳥や蝶・トンボなどの昆虫をはじめ様々な生き物が関わりを持ちながら共生し、都市環境と自然が融合する場となっている。
また、田畑での米や野菜作り、雑木林の下草刈りなどには、他の企業のオフィスワーカーや地域の住民によるボランティアの参加による活動で実施され、地元の子供たちにも自然の姿を学習する機会を創出している。緑地や運営・維持管理の内容もさることながら、大阪駅の駅前でこれを行うことの発信力が高く評価された。
【国土交通大臣賞】 緑の市民協働部門
名東自然倶楽部『猪高緑地』(愛知県名古屋市)
猪高緑地がある名東区は、区域全体が「市街化区域」であり、猪高緑地の周辺も昭和30年代から急速に住宅地として発展してきた結果、猪高緑地は、街中に残された「緑の孤島」となりつつある。かつてこの地は、里山として、良好な環境と景観であったが、生活様式の変化により「雑木林や里山」は利用価値を失い、順応的管理がなされなくなり荒れるに任せる状況となってしまった。名東自然倶楽部は、その前身である「自然観察グループ」として昭和58年に活動を開始し、自然観察会を毎月開催してきた。この地が荒れた森に変わっていくことを黙って見てはいられないという思いを持った人が集まり、「街中に残された荒れた里山において、里山のパーツである棚田などを復元し『緑地と自然の環境』を後世まで残す事」を目的に、平成9年、名東自然倶楽部が設立された。
現在は、約50名の会員が、雑木林・竹林・草地の管理・保全活動や、体験学習施設としての田畑の管理・保全、用水・湿地の管理保全、自然観察・環境教育活動、植物や生物の調査活動を行っている。
手入れがされなかった暗い森が、適切な間伐作業等により、林床まで光が届くようになり多様な植物がみられるようになってきている。
会の発足から15年以上が過ぎているが、活動趣旨やコンセプトに賛同して新たな会員も加わり、世代替わりがなされようとする段階にきている。調査から、保全、教育活動といった多様な取組みがされていること、また、世代交代が難しいといわれている市民活動において、世代交代しながら息の長い活動を実践していることが高く評価された。
【国土交通大臣賞】 緑の事業活動部門
株式会社メディカルマネジメント松沢/東京パワーテクノロジー株式会社
『都立松沢病院』(東京都世田谷区)
都立松沢病院の歴史は、明治12 年に上野公園内に「東京府癲狂院」が設立されたことにはじまり、大正8年に当地に移転し現在に至っている。敷地面積、約187,300㎡のうち、約80,400㎡を緑地として保全している。
東京都がPFI事業として実施する「精神医療センター整備運営事業」によって、病院全体を再整備することとなり、これに伴い、新たな土地利用への再編に合わせて、緑の骨格の再構成を行っている。植栽計画では「こころの風景を療養の空間に再編する」ことをコンセプトとし、山・街・里の3つのゾーンに区分し、土地利用特性に応じた景観を創出している。
長い歴史をもつ病院であるだけに、高木だけでも約3400本を有しており、再整備にあたっては既存木を保存することを原則とし、既存の緑の中にはめ込まれるように新館などの施設を建設している。結果、病院の北側の玄関口エリアは、敷地に隣接して走る京王線からの景観も意識し、既存木を生かしながら、地域を代表する緑景観を保持している。
患者さんや病院関係者の憩いの場となる新館周りには、馴染み深い世田谷の里の風景をモチーフにし、既存樹群と竹林や果樹群を数多く配し、療養環境にふさわしい植栽景観を創出している。
今回の再整備を期に、地域住民の声を反映し、病院の外周に地域の憩いの場となる広場を設けたり、プランターの植栽や花壇の手入れをするボランティア活動が発足したりするなど、地域との連携も深めている。
既存樹木を保全しながらの再整備工事に加え、より良い環境や景観を地域に提供し、地域と共に育んでいく取組み、地域のイメージアップに繋がる取組みが高く評価された。
【国土交通大臣賞】
埼玉県所沢市(埼玉県所沢市)
所沢市は、都心から30km圏内にあり、武蔵野台地のほぼ中央、東京都多摩北部に接する埼玉県南西部に位置する。山口貯水池(狭山湖)を中心に広がる狭山丘陵、武蔵野台地の平地林、歴史的景観を形成している三富新田などが見られる緑豊かな都市である。市域に対する緑被地の割合は約45%であり、市街化地域では約15%、市街化調整地域では約63%をそれぞれ占めている。また市域に対する緑地の割合は約29%であり、市街化区域では約11%、市街化調整区域では約40%をそれぞれ占めている。市では、みどりに関する総合的な計画である「所沢みどりの基本計画」を平成23年に策定し緑化の推進を図っている他、平成25年には「公共施設緑化ガイドライン」を策定し、緑化の基準や方法、維持管理等の基準を示し、公共施設の緑化を推進している。
「里山保全地域等指定事業」は、市内に残された貴重な緑地を保全緑地として指定すると共に、指定後の整備等を行うものであり、みどりの基本計画策定後28.34haの緑地がこの指定を受けている。また、こうした緑地の保全を支える仕組みとして「みどりのパートナー活動推進事業」がある。これは、みどりの保全や緑化の推進に関し、活動を希望する団体または個人を「みどりのパートナー」として登録し、土地の所有者に代わって樹林地等の維持管理(みどりの保全活動)や、街中の公共施設等の敷地における緑化活動(緑化の推進活動)を行う制度で、みどりのパートナーには、活動場所や緑化資材の提供等を行っている。みどりの基本計画による総合的な方針と、それに基づく各施策が着実に展開され、具体的な成果として現れてきており、その取組が高く評価された。
【都市緑化機構会長賞】
長崎県立島原農業高等学校
『しまばら芝桜公園』(長崎県島原市)
平成3年の雲仙普賢岳の噴火により甚大な被害を受け、20年以上が経った現在でも、その爪あとは癒えず、復興に向けた取組みが行われる中、島原農業高校では、「環境再生」「観光再興」を目指して、砂防ダムを市民が憩い賑わう公園にするための活動を行政や地元企業と連携し、平成21年2月に「芝桜公園を作る会」を発足させた。地元事業者等の協力を得ながら土壌改良し、協賛金や募金により、これまでに芝桜25万本を植栽してきた。芝桜のデザインは、島原のシンボルである島原湧水の鯉をモチーフに、2匹の鯉が泳いでいる様子を描いている。この成果として、土石流で荒廃した土地が見事に自然を取り戻し、春になると色とりどりの芝桜が咲き乱れる、島原の一大観光地として復興の足がかりとなっており、地域振興に貢献する事例として評価された。
【都市緑化機構会長賞】 緑の事業活動部門
三井住友海上火災保険株式会社
『三井住友海上駿河台ビル・駿河台新館』(東京都千代田区)
昭和59年、当時の経営者のコンセプトに基づき、現代にも通用する高い環境性能と緑あふれる公開空地を持つビルが誕生した。この理念を継承し、施設改修を期に、東京都市計画都市再生特別地区を取得したうえで、隣接するお茶の水仲通の電線類の地中化、歩道の拡幅、セミフラット化、樹冠を形成するエゴノキを中心とした在来種の並木を形成するとともに、他に先駆けて「生物多様性緑化のための樹木・植栽選定基準」を設け、生物多様性に配慮した緑地を整備し、エコロジカルネットワークの形成の大きく寄与している。また、屋上菜園の地域への貸し出し、「市民環境講座」の開催、新館建設時に敷地の一角に環境コミュニケーション施設「ECOM駿河台」をオープンさせるなど、多様なステークホルダーとの交流の機会を創出している。緑のトップランナーであるという自負のもと、「事業者が『緑』で地域にどのように貢献できるのか」について考え抜き実行した点が評価された。
【都市緑化機構会長賞】 緑事業活動部門
京都府
『関西文化学術研究都市(京都府域)』(京都府木津川市、京田辺市、精華町)
京都府・大阪府・奈良県に跨る研究都市で今回、対象となった京都府域のエリア周辺は、景観上重要な周辺の法面や斜面の緑を保全し、緑豊かな外観を形成しており、地区内は、緑豊かなシンボル道路や公園・緑地、緑道(歩行者専用道路)を配置している。施設計画に当たっては、景観法に基づく景観計画により、緑化率の確保をはじめ、景観の専門家による景観部会の審議を行い、良好な景観の形成を促している。また、地区内に立地する企業には建設時だけに止まらず、開業後も定期的に訪問し、植栽の生育状況等を確認し、良好な緑の保全・維持管理のためのアドバイスを行っている他、地域の企業等で組織する「まちづくり協議会」が、定期的に街の緑化・美化活動に取組むなど官民一体となった緑のまちづくりの取り組みが評価された。
【奨励賞】 緑の市民協働部門
船橋小径の会
『世田谷区地域風景資産 季節の野草に出会う小径』(東京都世田谷区)
都会では珍しく、未舗装で土の道とした昔ながらの緑の景観が残されているが15、6年前から緑が失われ始めている状況にある。平成14年に、区風景づくり条例に基づく「地域風景資産」に選定されたのを機に、地域住民による道の風景と環境を保全・育成するための会が設立。会では、地域での公共工事に対しては、使用材料・工法の協議、高層集合住宅建設においては、事業者との環境保全協議を行うとともに、外来種・園芸種の排除と当地の在来種構成の植栽など原風景の再生を図る活動を行っている。地域住民に自然と関わってもらうため「染め色」「かご編み」「布織」などの工房活動を行っており、地域住民の自然、緑化への理解を深めている。当会のこうした環境に対する種々の活動により地域の原風景再生並びに環境の保全が図られることが期待される。
【奨励賞】 緑の市民協働部門
大阪府立園芸高等学校環境緑化科
『妙見の森・梅田スカイビル・狭山池公園・笹原公園・彩都西公園、伊丹空港・長居公園バタフライガーデン』(大阪府大阪市等)
一般園芸植物の他に地域種の食餌植物や吸蜜植物の栽培に取り組んでいる。近年、これまで身近に見られた生き物が減少し、生き物に触れる機会が大変少なくなっていることから、平成4年から当校の取り組んでいる食餌植物や吸蜜植物の栽培を活用して都市部の身近な場所に人々が蝶をはじめとする昆虫と触れ合える場所の創出に取組んでいる。活動場所は、大阪府内、府周辺地域にある妙見の森、梅田スカイビル、狭山池公園、笹原公園、彩都西公園、長居公園等で、各施設に同校で栽培した様々な地域種の食餌植物、吸蜜植物を植栽することで、多種類にわたる蝶の幼虫を育成するなど、蝶の生息地となる「バタフライガーデン」を生み出している。ガーデンは、すべて公開され、環境教育の場として幼稚園児、小中学生等に活用され、管理作業でも、地域住民、企業、公共団体との協働により交流を深めている。
【奨励賞】 緑の事業活動部門
株式会社ヤマト
『ヤマトビオトープ園』(群馬県前橋市)
事業所周辺は、市街地に囲まれた緑の少ない地域で、自然環境問題を正面から捉えていこうという経営方針から、平成11年に社員有志による研究会が発足し、「企業の森を造ろう」を合言葉にビオトープ園を整備し、かつてあった里山の原風景の復元を目指している。植栽には、近隣に配慮して枯葉の発生を防ぐために落葉樹は控え、また花粉症などのアレルギーの原因となるスギ、ブタクサは避けることとした。また、昆虫などの生き物の多様性も考慮して、蝶の好む柑橘系の樹木・花を植栽し、ビオトープにおいては、生物の生育に適さない水質を自社開発した装置で水質改善を行い、ホタルやメダカ等の魚類の育成にあたっている。野鳥もカルガモの巣営など、少しずつ自然環境が本来の姿を取り戻しつつある。当施設は公開され、「ホタル観賞の夕べ」「野鳥観察会」などの催しが開催され、多くの住民との交流が図られている。
【奨励賞】 緑の事業活動部門
関電不動産株式会社、ダイビル株式会社、株式会社日建設計
『中之島四季の丘・ダイビル本館』(大阪府大阪市)
中之島西部地区構想における緑道ネットワークの起点となり、民間の力を活かした今後の都市の緑のありようを先導するにふさわしい「緑豊かな水都大阪のシンボル空間」を目指している。水・緑・建築のセット空間を創出することが重要と捉え、船上や対岸からも視認できる自然な緑の丘を創出。そして、川への方向性を出す動線や水辺を印象づける水景、中之島に春を告げる花木を植栽することで、中之島ならではの個性的な緑の風景を創出している。都心の高密な土地利用が求められる地域であるため、地下駐車場と地域への熱供給施設を内包し地表面を自然な緑で被覆した小高い丘形状とすることで緑視率が高い「緑のランドマーク」を形成した。美観的にも、河川遊歩道沿いの花木(サクラ等)との連続性に配慮し、春の花木を中心に植栽することで、中之島に華やかに春を告げる「花の丘」を創出している。